037531 ランダム
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Midnight waltz Cafe 

Red Moon -第4幕-


     ―「深夜の舞踏会」の舞台を、桜吹雪が彩っていく・・・


             第4幕   桜の記憶

                              
 「幻だよな・・・」                   
 涼はつぶやいた。                   
 
 『幻じゃないのよ、涼。』                 
 桜がそう言った時、重なって雪絵が同じ言葉を叫んだ。   
 「雪絵、どういうことだ。」               
 「私が道に迷って、教会に辿り着いたの。そこでこれを見つけたの・・見て、涼。」                  
 そう言って雪絵は、持っていた写真を涼に手渡した・・。  
 「これって、姉さんの写真じゃないか。」         
 「日付と、裏を見て。」                 
 「日付? 99・4・10、これって今年じゃないかよ。裏は・・『23歳のバースデイ』・・ 姉さんは、俺より5つ歳が上だから・・」                   
 「私達は、今年で18よ。」               
 「あってる。・・・ってことは」            
                              
 幻や、蜃気楼ではない。本当に桜が目の前にいるのだ。   
 「姉さん・・・どうして・・」             
 「それは今から説明するわ。・・その前に、お久しぶりね、楓君。」                         
 「そうですね、高校卒業以来ですからね。」        
 楓は微笑みながら話す。                 
 「あなたの結婚の話題もニュースで見たわ、おめでとう。」 
 「桜さん、あなたにその言葉を言われるのが一番つらいですよ。昔から好きだった人である、あなたにね。」       
 楓はそういった後の、次の言葉を飲み込んだ。  
 
 桜には聞かれたくはない言葉なのだから。
 (その上、あなたは秀明さんと付き合いだして、挙げ句にはどこかへ行ってしまったのですから・・)というこの言葉を・・ 
 
 「・・真琴ちゃんを泣かせたら許さないからね。」     
 桜は、笑顔でそう言った。                
 「もちろん、分かっていますよ。桜さん。」        
 楓は、苦笑しながら答える。               
                              

 「それじゃあ・・涼のために昔話を始めるわね。」      
 
 そして桜は、語り始めた。                

                              
 ・・・始まりは九年前かしら               
 
 『僕は・・・辰巳秀明と言います。よろしく。』      
 教会に通ってた私は、中2のクリスマスイブの時に、初めて辰巳秀明さんに会ったわ。               
 それから4カ月後、私の15歳の誕生日の日に、教会に来た人の相談を聞き、(ちなみに相談内容は、ある人が婚約者に渡すつもりで用意していたリングを、兄に取られてしまったということで、桜は、その兄の所に奪いに行こうと提案したのだった。)私は、楓君に手品を教えてもらうことと、『怪盗』の手助けを頼んだの。
 「桜さん、どうして手品なんですか?」
 「怪盗といえば、手品じゃないの?」
 (桜さん、それは・・・漫画の見すぎなのでは??)と楓は、思ったとか思わないとか・・・やっぱり思ったとか・・・・
 私への誕生日プレゼントとしてね・・もちろん楓君は、協力してくれたわ。(この時、楓が積極的に手伝ったかどうかは怪しいが・・・) 
 そして、この怪盗に名前をつけたのも楓君だった。                   
  『名前はチェリーなんてどうです?』          
  『怪盗、チェリーかぁ・・・。』                 
  『そう、怪盗チェリー。桜さんにぴったりの名前だと思いますよ。』                         
 
 ・・・こうして、私と楓君の怪盗チェリーが始まったの。  
                               
       ―これが深夜の舞踏会の始まりだったの・・
                              
     それから、高校生になっても怪盗チェリーを続けたわ。   
                              
 確か・・真琴ちゃんと知り合ったのも高校生になってからだったわ。(正確に言うと、高一の時同じクラスで、入学後すぐに仲良くなったのだけどね。)               
(ちなみに、高一の時から桜、楓、真琴の三人は三角関係だったのだが。)
                  
              高1の夏

  『桜ちゃん、高山君とどういう関係なの?』        
  『ただの幼なじみよ。』                 
  『本当に?』                      
  『本当だって、真琴ちゃん。私には・・』          
                              
            夏休みの図書館
 
  『うーん、私の背ではあの本は取れそうにないわね。そうだ!脚立を使って取ればいいんだわ。』             
  『何とかとれそうね。・・きゃあーーーー。』       
 私はその時、脚立から落ちたの。             
  『大丈夫ですか、桜ちゃん。』              
 その時助けてくれたのが秀明さんだったの。        
  (桜は知らないが、この時近くに楓と真琴がいたのだった。真琴が告白しようと呼び出したのだが、桜の叫びを聞いて、楓は走っていったのだった・・真琴にとっては逃げられたと言うべきか・・)                       
                              

 高1の時に、怪盗の方は大きな問題はなかったわ。 そして、高2になってから・・              
                           
 高2の7月7日、その日の夜もいつも通り(?)怪盗チェリーの仕事をしていたのだけど、盗み終わって帰る時に、私と楓君の前に一人の人が現れたの。それが・・          
  『あなた達が、怪盗チェリーですか?』          
  『・・あなたは誰。』                  
  『・・私ですか、そうですね・・クロスとでも名乗っておきますか。』                        
  『あなたは、何の用があって僕達の前に現れたんですか。』 
  『この辺りで怪盗をやっているあなた達に聞きたいことがありましてね。』                      
  『聞きたいこと?』                   
  『ええ、お二人とも、黒い水晶の話を聞いたことはありますか?』                          
  『黒い水晶・・』                    
  『いえ、聞いたことはありませんが・・』         
  『そうですか、それならいいのです。お時間を取らせてしまって申し訳ありません。』                 
  『その黒い水晶に何かあるのか?』            
  『あなた達には関係のないことですよ。・・深入りしないことをお薦めします。』                   
 そう言って、クロスと名乗った男は消えていった。     
                              

 それから、私と楓君でその黒い水晶について調べたわ。
 ・・でも、何も分からなかったの。            
 ・・・そして時は流れ、クリスマスが来たわ。         
                              
      12月25日、雪の降る聖夜の夜。

 私は、その時パーティのために教会にいたの。その時ラジオのニュースからこう流れてきたの。             

 怪盗クロスなる者が、警視庁に予告状を出してきた。
 
 目的は、鏡美術館の宝石!

 これを聞いて私はすぐに鏡美術館へと向かったわ。     
 
                             
  『・・ここのある宝石は私の探している宝石でありませんね。仕方ないですね、次を当たるとしますか・・誰ですか?そこのいるのは。』                       
  『間に合ったみたいね、お久し振りね、クロスさん。』   
  『何か用ですか?』                   
  『ええ、黒い水晶について教えてもらいたくて。』     
  『やれやれ、好奇心旺盛な人ですね。・・・しかし、教えるわけにはいかないのですよ、残念ながらね。さて、それでは私はこの辺で消えるとしますか。』              
  『まっ、待って!』                   
 その時、私は足を踏み外して、鏡美術館の屋上から落ちてしまったの。                        
  『きゃあーーーーーーーーー!』             
  パシッ、                        
  『大丈夫ですか、桜さん。』               
  『ありがとう、楓君。』                 
 落ちてゆく私を楓君は助けてくれたの。          
  『でも、どうしてここにいるの?・・それに、私を助けるのって、かなり危なかったと思うんだけど・・』        
  『ここに来たのは、パーティで消えた桜さんを追いかけてきただけですよ。・・・・・・・・・』            
  『何?』                        
  『自分が危ないとしても助けたのは、桜さん、僕はあなたのことが好きだからですよ。』                
  『・・・・・』                     
  『もう一度言います、あなたのことが好きです。』     
  『・・ごめんなさい、楓君。あなたのことは幼なじみ以上に考えられないの。』                    
  『そうですか・・・』                  
  そう言って楓君は一人で帰っていったの。         
                              
 ―それから当分の間、私は楓君と話すことはできなかった。だから、怪盗チェリーは休業していたの。あの日までは・・・   
                              
 高校三年生の夏、またクロスが予告状を出してきたの。その時は楓君から私に話しかけてきてくれたの。おかげで仲直りはできたのだけど・・・。                        
                              
  『・・この宝石でもないようですね・・・また、あなたですか。』                          
  『ええ、そうよ。今度こそ教えてもらうわ。』       
  『なぜ知りたいのですか。』               
  『別に理由なんてないわ。』               
  『そんなことでは・・』                 
  バン!                         
気がついたら、クロスは銃で撃たれていたわ。       
  『お前が、黒い水晶を狙う者か?』            
奥からそう声が聞こえた。                
  『とりあえず、逃げよう。』               
楓はそう言って、クロスを抱え走った。          
私達は急いで逃げて、教会まで帰ってきたわ。もうパーティは終わっていたので、誰もいなかったのには助かったわ。   
そこで私は初めてクロスの顔を見たの。          
  『秀明さん?』                     
  『秀明を知っているのか。』               
  『ええ、この教会に住んでいるから・・ってあなた秀明さんじゃないの?』                      
  『ああ、俺は秀明の双子の兄、優人・・十文字優人だ。』  
  『十文字?辰巳じゃなくて。』              
  『秀明は、辰巳と名乗っているのか。・・辰巳というのは母さんの旧姓だ。』                     
  『・・・それで、黒い水晶って何?』           
  『・・父さんの宝だよ。誰かに盗られたんだ。・・これで満足したか。』                       
  『ええ。』                       
  『助けてもらったお礼だ。それでは俺は・・・』      
  『どうしたの・・!』                  
  『秀明・・・』                     
気がつくと後ろに秀明さんがいたのよ。          
  『教会の前で声がすると思ったら、桜ちゃん、そして・・兄さんか。それにしてもみんな黒づくめなんだけど・・』    
そして私は、自分が怪盗チェリーであること、それとさっきの出来事について説明した。             
  『確かに、最近ここに来る人の悩みに関係することばかり、怪盗チェリーが関わるんで気になってはいたんですけどね。まさか、桜ちゃんだったとは・・』              
  『やっぱり不自然だったかしら。』            
  『ええ、とても。それよりも、まだ兄さんはあの水晶のことを気にしていたんですね。』                
  『当たり前だ、父さんを殺してまで奪っていったやつがいるんだから。』                       
  『殺して?』                      
  『ああ、そうだ。』                   
  俺の父十文字司は、黒色と虹色と赤色の三つの水晶と、一つの鏡をもっていた。そのうち黒い水晶以外を友人に託した。そして残った水晶は、青いバッジをしたやつに奪われた。奪われた時に、父さんは殺されたんだ。                
  『・・・・』                      
  『だから、知らない方がいいと言ったんだよ、最初に会った時にな。』                        
  『それで兄さんは、探し続けるのかい。』         
  『ああ、・・それじゃあ俺は調査に行く。じゃあな、秀明、そしてお嬢さん。』                 
 そう言い残して、優人さんはどこかへ行ったわ。そしてこの言葉が、私達が聞いた優人さんの最期の言葉だったの。    
・・そう、次の日に優人さんは、死体で発見された。しかも他殺体としてね。                     

                              
 それを知った私は、敵を討ちたいと思ったけど、秀明さんに止められたわ。                      
  『お願いですから、無茶なことは止めてくださいね。』   
  『・・・うん。』                    
この真夏の事件を機に私は、怪盗チェリーを止めた。いかに自分が無謀で、無力であることを知ったから・・・      
そして時は過ぎ、今住んでいる所よりも遠い所にあるけど、大学を受験して、合格した。あとは高校の卒業式を無事に迎えるだけとなったの。                
                            
  そして、卒業式の日
  式を終え私は、すぐ教会へと向かったの。秀明さんに逢いに。
  『秀明さん、私はあなたのことが好きなの。』 そう言うために・・・                  
 しかし、秀明さんはいなかった。今朝、何にも言わずに引っ越してしまったの。                    
 そうして、私は告白できないまま大学生となったの。    

 大学に入って普通に生活していたのだけど、大学2年生のある日、美術館で黒い水晶を見つけたの。しかも、その所有者と思われる人は、青いバッジをつけてたの。優人さんの言葉を思い出して調べてみようと思ったの。その黒い水晶、誘惑について調べていて、ある人に会ったの。それが、神尾さんのお母さんである、琴美さんよ。琴美さんは、水晶の持ち主である蒼波という人が不正を行っているということについて調べていたの。                          
そして二人で共謀して、潜入したの。蒼波の家にね・・ 
結果、捕まってしまって、私と琴美さんは、高崎湾に連れられたの。                         
  ・・・そこで、私と琴美さんは海に落とされてしまったの。 
                             
 
 その時私は・・・                
運良く生きていて、この島に辿り着いたみたいなの。(それでも普通に動けるのに、二年近くかかったけどね。)琴美さんは、いなかったわ。はぐれてしまったか、それとも・・・   
その時後悔したわ。また私のせいで人を死なせてしまった。 
私は、余計なことをしてしまったのだと・・         
  『死のう・・・』                    
私は、心からそう思った。                
その時声が聞こえたの。                 
  『大丈夫ですか、桜さん。』               
  それは、秀明さんの声だった。              
  『どうして秀明さんがここにいるの。』          
  『それは、僕が二人を助けたからですよ。』        
  『・・二人って事は、琴美さんも。』           
  『ええ、しかし・・』                  
  『しかし?』                      
  『・・彼女は亡くなってしまいました。』         
  『・・・わ、私のせいだ。私が、蒼波の所に潜入しようと言ったから・・』                      
  『桜さん、だから言ったのですよ。無茶はしないでくださいって・・』                        
  『そう言えば、どうして秀明さんが助けることができたの?』
  『それは、私も潜入していたからですよ。お二人よりも上手にね。つまり僕がいなければ、あなたも本当は・・・』    
  『・・そうよ、私も死ぬべきだったのよ。私のせいで、優人さんと琴美さんは・・・』                 
  パシン!秀明は、桜の頬をひっぱたいた。             
  『確かにあなたのやったことはいけないことですが、反省はするべきですが、だからといって自暴自棄になってしまっては兄さんとあの女性は浮かばれませんよ。・・それに、2人ともあなたのことを恨んでいる様には、とても思えませんから。』 
  『・・・』                       
  『あなたは、生きるべきですよ。2人の分までね。』    
  『・・・そうだね、私は生きるわ。今私が死を選ぶことは、2人に対する責任から逃げることだもんね。』        
  『そうですよ、桜さん。』                
  『本当にありがとう、秀明さん。』            
                              
  『私は、生きよう。少しの間だけだったけど知り合うことのできた2人のためにも・・・そして自分のためにも、そして、愛する人のためにも・・・』          
                              
  『そういえば、秀明さん。私のことをさん付けで呼んだよね。』
  『20歳の人に、ちゃん付けは失礼でしょう?』      
  『・・ありがとう。そして、愛しているわ。秀明さん。』  
  (やっと言えたわ。この言葉を・・・。) 
                              
 ・・・そうして、私の体が健康になるまでの間に、両親には元気にやっていると、一応電話をかけたのだけど・・涼には、伝わってなかったみたいね。                
                              
 そして、この2年の間に、涼達の活躍によって、水晶の関わる事件が次々と起きては、解決していったのは、あなたたちがよく知っていることだから説明するまでもないわね。     
                              
 ちなみにその間私は、秀明さんと2人で生活していたの。安全のためにも、ここから出ないほうがいいと秀明さんから言われたのもあるんだけど。
                             


 もうすぐ朝日が昇ろうとしている。  
 「・・・これで全部かしら。私の昔話は・・」       
 語り終えた桜は、疲れたのだろうか、その場に座り込んでしまった。  


 「・・・・・・・」                   
 涼達は、何も言えずにいた・・・・・・。               「神尾さん・・」                    
 桜は、真理に話しかけた。                
 「あなたのお母さんを死なせてしまってごめんなさい。」 
 真理に、桜は頭を下げる。
 「えっと・・桜さん、気にすることはないわ。秀明さんの言う通り私もお母さんは笑顔で許してくれていると思うから。」  
 真理は、桜に笑顔でそう言った。
                              
 「姉さん・・・」                    
 涼がそうつぶやいた時、日が昇り始め、夜から朝へと変わっていく。                         
 朝の光を浴びて、『誘惑』と『虹』の水晶が輝き始めた・・・                     
                             
           ―そして、宝は現れる・・・。      




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